Short Story

二人の姿を照らしておくれ
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特に何も変わったことのない金曜日の夜。
光は日本文学を、馨は外国の本を読んでいた。
時折聞こえる風の音は、静けさを邪魔することなく鳴いている。
二人が本をめくる音が異様に大きく響いていた。




ペラ………



光がページをめくるスピードはとても遅かった。
普段、本を読まない光にとって、この時間は苦痛でもあった。
本来なら繰り返されるBGMを流しながらゲームでもしたいのだが、馨が読書をするというのなら別だ。
馨の楽しみを邪魔したくはなかった。


……………



全くページが進まない。
光の目は文字を全く捉えていなかった。







本を静かに閉じ、本棚へと向かう。
絵本のところを指でなぞりながら見ていく。

大抵の物は、名の知れた童話だった。
所々、マイナーな物が紛れていたりする。
光は背表紙が光を帯びている外国の絵本を選んだ。
表紙に雪が描かれていて、その一つ一つがまた、光を帯びている。


それを手に、馨が腰かけるソファーへ向かい、隣に腰かけた。





「あ、絵本にしたんだ」

「うん。久しぶりに読んでみようと思って」

「へぇー」



そう言うと馨は再び本に目を戻した。
その横顔をしばらく見つめた後、光も本へと目を落とす。


本の内容は、恋愛ストーリーの王道だった。
女の子がいじめられ、舞踏会で王子様に出会い、結婚。
この道順をたどり、光が読んでいる本のヒロインも王子様との結婚に辿りついた。




「つまんねーの」




大きな音を立てて本を閉じる。
隣にいた馨は驚いたように光を見た。



「それって昔、光が好きだったやつじゃん。意外」

「え、僕、好きだった?」

「うん、ものすごい気にってたよ」



正直、光は自分がこれを気に入ってたと言われても覚えがなかった。
特別、絵がうまいわけでもなく、ストーリーが奇抜なわけでもない。



「本当?」

「うん、なんでだっけなぁ?」



そう言われ、もう一度、本を開けてみる。
表紙を一枚めくると、ステンドガラスが描かれていた。
気が遠くなるほどの枚数のガラスが一枚一枚、丁寧に色づけされていた。
ページをめくっていくと、この本がどれだけ丁寧に作られたかが分かる。


「……」

「……光?」

「分かった気がする、僕がこの本好きだったって」



そう言うと、へぇよかったね、と馨はいい、再び本へと視線を戻す。
そんな馨の腰に手をまわし、無理やり立たせた。



「わ……なに!?」

「馨、ダンス、しよ?」

「はぁ?」



わけが分からないという顔をしている馨の手をとり、ステップを踏む。



「ちょ、光っ!」

「いいからいいから」



ダンスは光のほうが上手かった。
社交ダンスの代表的な歌を口ずさむ。



「……バッカみたい」



そういうも、馨の顔はとても柔らかく微笑んでいた。







寒空の中に浮かぶ月が、二人の姿をより綺麗に照らしていた。













二人の姿を照らしておくれ












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