Short Story

この気持ちに気付くのはもうちょっと先の話
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なんだかね、もうよく分からない。
どうしてこんなにイライラするんだろ?
(嫉妬? そんなんじゃない)
あぁ、ほらまた一人、また一人。男女関係なくまた一人。
(もうどうなってるか分からない)






「うわ…」


中等部に入り、ちょうど真ん中ぐらいの頃。ひねくれた性格はもう完成していて、二人の世界で学校も過ごしていた。他人に愛想を振る舞うこともなく、何かをしでかすでもなく、周りとは全く別世界で学校生活を送っていた。それなのに、僕らはまぁ簡単に言うとかなりモテていた。どちらでもいい、というバカで本当に自分勝手な奴らだけど、そいつらをカウントに入れたら月一回は告白されていた。それは僕だったり馨だったりまちまちで、そのたびにバカだと言って嘲笑ってきた。
それなのに…。


下駄箱を覗いた馨は顔を思いっ切り歪めていた。気持ち悪いものでも見たようだ。僕も横から中を覗く。そこには一通のラブレターがあった。



「あー、またきてんね」



いつものこと、と言う風に言ったが、馨はいつものこと、とは捉えていないようだ。まだ顔を歪めたまんまで、ボーッと立っている。馨の様子に納得がいかないまま、もう一度ラブレターを見る。



「……あ」




そこに書かれていたのは。
但馬 壮也
同じクラスの男だった。


一瞬、頭がフリーズする。男、という単語が頭を支配している。いくら告白された回数が多いといえど、男からというのは初めてだった。というよりか、完全に予想外だった。
馨がため息をつき、ラブレターの中身を見る。僕も覗こうとしたら、細い腕で止められた。



「ちょ、何で見せてくれないのさ?」
「ごめん。ちょっと今回は一人でいくね」
「はっ!?」



そう言うと、馨は靴を履き、急いで外へと出て行った。僕は呆然とその後ろ姿を見つめることしか出来なかった。こんなことは初めてで、うまく対応できない。それでも、馨が危険な目にあったら、という考えが出てきたので、急いで外へ出た。どこへ行ったのか分からないけど、何となく馨がどっちへ向かったかは分かる。双子の勘かな、とか思いながら走っていると、案外早く見つかった。
草むらに隠れて、馨と男のやり取りに耳を傾ける。


「クラスメートとしか見れないんだ」
「じゃあ……やっぱり、付き合うのはダメ?」
「……うん、ごめんね」



馨が俯き加減に答える。その姿は本当に悲しげで、辛そうだった。その姿に驚いて馨をガン見してしまう。馨が告白されて、あんなに申し訳なさそうな顔をしているのは初めて見た。そして、あれが演技でも無いこともわかる。



「そっか……」
「……」
「拓哉も政輝もダメだったて聞いてたから覚悟はしてたけど…」
「……」
「聞いてくれてありがとう」
「……うん、ありがとう」



そう言うと男は泣きそうなのを我慢しているような顔でその場から立ち去った。取り残された馨はと言うと、馨もうつむき泣きそうな顔をしていた。思わず、草むらから馨のところへ飛び出した。



「わっ、光!?」



馨は心底驚いたような顔を見せた。僕は馨の肩をつかむ。



「前にも男に告白されてたの…?」



そう聞けば、馨は小さく頷いた。その姿にイライラする。



「なんで教えてくれなかったのさ」


僕に男からのラブレターなんかきたことがない。全部馨宛てで、馨が一人で告白されに行ったのだ。そのことが無性にイライラする。自分でもどこに怒っているのか分からない。




「…ごめんね、男に告白なんかされたら…光がひくかなって……嫌われそうで……」



馨がますます泣きそうな顔になる。それに耐え切れず、僕は馨を思いっ切り抱きしめた。大丈夫だ、て言う風に思いっ切り。



「大丈夫だよ、馨は告白されただけなんだから。気持ち悪いのは告白した男の方じゃん」



ドクッ
自分の言葉に心臓が大きく跳ねた。涙もこぼれそうになった。自分の体の異変に驚いていると、馨は僕の腕の中から抜け出した。


「確かに、男が男に告白なんて気持ち悪いよね」



その言葉にも泣きそうになったが、馨の痛々しい、辛いのを我慢したような完全な作り笑いに、涙が落ちそうになる。
どうしてこんな気持ちになるのか分からないまま、馨をもう一度抱きしめた。





この気持ちに気付くのは
もうちょっと先の話







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